複雑理工学専攻 
   佐藤直木 助教

私から見たイタリアの教育システム

私は日本人とイタリア人のハーフで、イタリアで生まれ、大学卒業までイタリアで過ごした。その後、修士から東京大学に来てそれ以来日本に住んでいる。日本に来て、イタリアと日本の教育の違いを認識しており、ここでは、イタリアの教育について紹介したい。
 まず、イタリアは小5-中3-高5-大3で高校生活が長くなっている。中学、高校、大学に入るのに受験というシステムは皆無で、入りたい学校・入りたい学部に誰でも入ることができる。小・中までは全員同じ内容の横並びの教育で、日本の教育と似通っている(ただし、受験勉強がないため、勉強を頑張る生徒はそれほど多くない。)

 一方、高校からは専門性が分かれ、文系、理系、工業、IT、観光、スポーツ等、学べる内容が高校によって異なる。勉強が好き/できる生徒は文系または理系の高校を選ぶことが多い。文系高校では、ギリシャ語、ラテン語、哲学、歴史を中心に学び、理系高校では数学、物理、ラテン語を中心に学ぶ。ただ、高校は午後12時半で終わり、かつ大学受験も部活も塾もないため、友人との遊びを優先する生徒が大半である。私も例にもれず勉強は卒業するために必要な最低限の範囲で済ませていた。

 大学は受験がないため、入りたい大学・学部を自分で選択する。ただ、イタリアの大学を卒業するのは簡単ではないため、油断して難しい学部に入学して結局卒業できないというケースが多く発生する。私の出身学部であるフィレンツェ大学物理学部を規定の3年で卒業できた生徒は0(残念ながら私も含む…)、4年で卒業できた生徒は全体の20%程度である。また、文系高校出身の学生が理系の学部を選択することも珍しくなく、私も文系高校から物理学部に入学した。当然、理転は大変な苦労を伴い、1年目は講義の内容を全く理解できず、全問正解だと自信のあった最初の数学のテストは0点だった。しかし、二年目以降、理系出身と文系出身の差は埋まってくる。これは、ラテン語等新しい言語を素早く習得する能力を集中的に高校時代に鍛えた文系出身学生が、数学・物理の数式を一種の言語として捉え、そのツールを習得するためである。文系出身の私も結果として、今では理論物理の研究者を志している。

 このようにイタリアの教育は日本とは大きく異なる。今振り返ってイタリアの教育でよかった点は、高校時代に哲学やギリシャ語等の文系教科を専攻していたことで、これらは現在の研究にも生きていると確信している。

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