♦♦ 先端生命科学専攻
♦♦♦  鈴木雅京准教授
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 柏キャンパスに来て驚くのはその駐車場の広さと使い勝手の良さだ。門のゲートを抜けてすぐのところに、キャンパスを横一文字に貫く格好で駐車場がある。そして駐車場に並行する格好で建物が横一列にずらりと並ぶ。入構→駐車→建物へ、という動線が誰の目にも明らかだ。そのためか、徒歩で15分の近所に住む私でも、ついついクルマで通いたくなってしまう。 
 そして柏は、知る人ぞ知る物流の要所だ。常磐道と外環のJCからほど近い柏IC周辺には巨大な倉庫が建ち並び、十余二工業団地が隣接する。ここに住んでいれば、都内を突っ切ること無くクルマで遠出できる。 
 さらに私はクルマが好きだ。これだけの条件が揃うと、どうしてもド
ライブ専用のクルマ、いわゆるセカンドカーが欲しくなる。試しに若かりし頃に憧れたスポーツカーはいくら位するのだろう、とネットを検索してみる。私の目を惹いたのは、1999年製のオープンスポーツカーであるS2000だった。当時中二だった娘に「このクルマどう思う?」と写真を見せた。「え〜っ!オープンカーなの?自分は良いと思うよ、だって夜オープンにしたら、星を見ながらドライブ楽しめるもん」その言葉を聞いて、私は意を決した。妻はもちろん反対だったが、何とか購入にまでこぎ着けた。 
 天気のよい休日や模試を終えた後の休日など、娘はドライブに行きた
がる。コースは毎回同じ「フルーツライン」だ。この道は朝日峠から国道50号線までを結ぶ全長30kmほどの県道で、筑波山一帯の豊かな自然を満喫しながら、峠道や長い直線、緩やかなカーブやアップダウンを楽しむことができる。ゴールは国道50号線沿いのラーメン屋だ。そこで毎回味噌ラーメンを食べてから帰路に付く。お店のご主人と私達はすっかり顔なじみになり、行く度に無料で一品付けてくれる仲になった。ある日娘がクッキーを焼いているので「料理研の課題?」と聞いたら「ううん、賢ちゃん(ラーメン屋のご主人のあだ名)にあげるの」との返事。二人の孫をもつご主人がそのクッキーを受け取ったときの驚きと喜びの表情を、私は今でもはっきりと思い出すことができる。
 私は息子ともドライブに行く。ただ、娘と行くときとは全然違う。自由研究で内燃機関の構造について調べた息子とのドライブ中の会話は終始クルマの話だ。VTECエンジンの仕組み、どのタイミングでブレーキを踏むか、シフトダウンのタイミングはいつか、この状況で最も相応しいギアは何速か、シフトノックはどうすれば軽減できるか、などなど。将来息子が彼女を助手席に乗せる日が来たとき、彼女にがっかりされることがあってはならない。そう思うと、ついつい熱が入ってしまう。 
 先日息子とドライブにでかけた。しかし、その日は私が助手席だった。今年大学二年になる息子は、自動車免許取得半年になる。S2000を買ったとき、息子の代までこのクルマを乗り続けたい、そう思った。ついにその日が来たのだ。そんな感慨深さは、息子の手荒な運転で吹き飛んでしまった。クラッチとアクセルのタイミングが合わないので、エンジンがノッキングを起こしクルマが激しく踊り出したのだ。しかし、極力アドバイスは与えないようにした。運転技術とは体感で習得する類いのものだと私は思うからだ。1時間もすると大分マシになった。しかし峠道に差し掛かると、ヒヤリとするようなスピードでカーブに進入した。速度を落とすよう注意しようとしたが、息子は遠心力を上手く去なしながら実に見事なハンドルさばきでカーブを抜けきった。すると彼の口から「S2000だとこの速度でもブレーキ無しで曲がれるんだね、フィットとは全然違う」との頼もしい言葉が。息子はこのクルマの性能を試していたのだ。
 帰宅してからその様子を娘に話した。「ええ、お兄ちゃんすごい!格好良いなあ」S2000がいかに気難しいクルマであるかを知る娘は、兄のことを心底尊敬していた。兄弟二人きりでドライブに行く日もそう遠くないだろう。

⇐ 2021年9月のコラム