♦♦ 理化学研究所
♦♦♦  放射光科学研究センター
♦♦♦♦ 井上伊知郎

20163月に物質系専攻の博士課程を修了した井上伊知郎と申します。兵庫県にある理化学研究所放射光科学研究センターに就職してX線レーザーの研究をしています。 

 就職してから週に1日程度釣りに行くようになりました。私自身が好きなのは“アジング”と呼ばれる釣り方です。アジングとは、アジをルアーと呼ばれる疑似餌を使って狙う釣法のことを言います。アジは警戒心が強い魚で、なかなかルアーを咥えない上に、咥えてから吐き出すまでは1秒以下しか無いそうです。この短い間に人間が反応して魚を針にかける集中力が求められる釣り方です。 

 アジングとX線レーザーを使った実験は実はよく似ているということに最近気づきました。両者共にきちんとした計画を立てることが大切です。アジングの場合は、魚がたくさんいるところに行き、魚がエサを食べている時間帯に釣りをしなければなりません。実験でも用意を入念にすることが重要です。1度の実験は3日程度と非常に短いため、限られた時間を効率的に使えるかが成否を左右します。さらに、共通することとして類推力が必要なことがあります。アジングでは、0.1 mm以下の細い糸を通じて伝わる情報から海中の様子を想像しながら、アジがいそうな場所にルアーを送り込まなければいけません。一方、実験ではX線を遮蔽している壁の外からX線検出器を頼りにして、状況を把握して実験を進行することが求められます。最後に得られる成果物について比較してみましょう。釣りでは新鮮な魚を調理することで美味しい食事にありつけます。研究の場合は論文を書いて社会に対する説明責任を果たすのはもちろん、学会や研究会に呼んでいただいて美味しい食事を楽しむことも1つの喜びです(最近はできないですが)。このように比較してみると、アジングと実験はよく似ている気がしてきます。 

 ただ、最近は海にいってきれいな景色を見ながら釣り糸を垂らしてリラックスする時間を過ごしていると釣果に関係なく満足するようになってきました。もちろん研究では同じようにならないように気をつけなければなりません。