♦♦ 先端エネルギー工学専攻
♦♦♦  田辺博士助教
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目指せ「脱口伝」
~コロナ禍対応を通じたちょっとした研究室・職場改善活動の紹介~

早いものでコロナ対応も1年半となりました。zoomによる授業の完全オンライン化やslack導入、学生実験のオンライン/実地ハイブリッド対応等も軌道に乗り、リモート化の珍しい話題も少なくなってきましたので、今回は「目指せ脱口伝」のタイトルにてコロナ禍対応をきっかけとした研究室・職場改善活動の話題を紹介いたします。(※私自身は趣味で30年近く和太鼓を続けていることもあり、口伝の伝統芸能の非合理の世界自体は好きですが…。)
私が所属する研究室はプラズマ実験に関わる研究室です。高電圧大電流機器・ガス真空系・レーザ・計測制御その他、多数のノウハウが存在する実験装置を扱っています。一方、共用の大型装置を皆で使うため、測定データは各自のPCに個別保存でなく研究室共用サーバーにアップロードの形式をとり、多少ネットワークの知識も必要になる研究室です。実機を伴う実験作業が多く、各種ノウハウは先輩から口伝で習得していくスタイルが標準の研究室で、研究室内部情報集約サイトとしてPukiWikiは導入されていたものの、積極的に編集する人がおらず廃れてしまい、重要情報は何かと特定の先輩から口伝で入手しないといけないことも多く、コミュ力(?)も含めた情強・情弱(?)の二極化が発生しやすいことがしばしば課題となっていました。
平時は「普段から先輩とコミュニケーションを密にすれば良いだけの話」と多少の不便さは目をつぶっていたところもありましたが、例年2-3月に行われる引継ぎがコロナによる登校制限等の影響もあり技術伝承がうまくいかない班が出てきてしまい、「年度末にまとめて」ではなく「常日頃から情報を明文化して集約するようにしよう」という機運が高まりました。特に、3月段階で「4月から入学してくる新入生に現場でガイダンスできない可能性がある」ということもあり、2020年3-4月にかけて有志で研究室内部wikiの立ち上げが集中的に行われました(プラズマ業界でもっぱら評判の良い、英国オックスフォードのカラム研究所が「fusion wiki」として採用するWikipedia編集形式「Media Wiki」を選択:下図参照)。
これまで研究室では、何度か研究室便利wiki立ち上げ機運が高まりながらも「いつかやろう」で終わってなかなか実現しなかったのですが、コロナ禍情勢の影響もあり、同調して一緒に積極的に編集してくれる仲間が多数現れ、現在実用レベルで運用できるようになってきました。日々「***の情報を加筆しましょう!」と互いがリクエストするとともに、「研究が軌道に乗り始めたので仲間に自分のプロジェクト宣伝もかねて」と自発的に執筆してくれたりと、ポジティブに情報集積が進む理想形に向かいつつあります。振り返ってみると、こういった研究室のような小組織内の情報集約サイトは、情報技術専門員がいないためボランティア編集が主体で、気が付くと専門外でネットワーク係を割り振られた担当の、ホスピタリティに丸投げになることが多かったことがこれまでの課題だったように感じます。今回採用した方式以外のwikiでも同じことはできたはずですが、「情報の知識がそれほどなくても、ネットワーク係の手を煩わさずに気が付いた人が誰でも編集できる」最低限の機能と、コロナ禍の中「何かできないか」と思って積極的に協力してくれる仲間が多数現れたこと、以前から蔓延していた「口伝由来の不便なところを改善したい気運」の3つがかみ合ったことで、コロナ後にも生きる使いやすい環境構築が進みました。あくまで便利データベースの確立ですのでこれだけで研究成果に直結はしませんが、こうした小さな改善の積み重ねが高じて皆が研究しやすい環境確立につながればと願います。
以上、簡単ではありますが、コロナ対応をきっかけに進められたちょっとした研究室/職場環境改善活動を紹介させていただきました。2021年度は昨年と比較すると研究室活動規制は多少緩和されてきたこともあり、研究室新人をまじえて「はじめまして」と、マスクはしているものの対面の自己紹介からスタートし、「春だなぁ」と年度の切り替わりの季節感が久しぶりに実感できる4月となりました。7月現在、供給量の課題はありますがワクチン接種の案内も少しずつ始まり、長いコロナ対応も少しずつ出口が見えてきたかな…と期待する今日この頃です。安心してそれぞれが仲間と再開できる日を楽しみに、もうしばらく健康に気を付けて、この長いコロナとの付き合いの日々を無事に乗り切りましょう。