サステイナビリティ学
♦♦ グローバルリーダー
♦♦♦  養成大学院プログラム 
♦♦♦♦ 准教授  小貫元治 

「学融合」ってどうやるの?

新領域創成科学研究科のキーワードでもあり、皆が「必要だ」「重要だ」とも言うけれど、いまひとつ「どうやって」実現するのかがすっきりしない「学融合」。本稿では、「学融合」と聞く時、筆者がいつも思い浮かべる一つの例(私が思う理想形の一つ)を紹介してみたい。
それは、SF作家ジェームズ・P・ホーガンが「星を継ぐもの」(原題:Inherit the Stars)で描いたプロセスである。ネタバレしない程度に紹介すると、舞台は、宇宙旅客機が飛び、月面までは民間人が行くことができるようになっている(近?)未来の地球。民間人ではなく探検隊であれば、木星までへも派遣されている時代。そんななか、月面でみつかった洞窟のなかに、宇宙服を着た「人間」の死体が埋もれているのが発見される。その死体は、寸分違わず「人間」なのだが、年代測定の結果、死亡時期が5万年前であったことが明らかとなる。旧石器時代に宇宙服を有し月で活動することができた「人間」とは何者か?それはどこから来て、どうやって月に到達・存在したのか?、、、、を解き明かしていくお話である。
死体の所持品の調査の過程で、その「人間」が使っていた言語が徐々に解明され、地球とは別の惑星が存在したらしいことがあきらかとなるが、その「人類」が進化したのは地球なのか、その未知の惑星なのか?が謎の焦点となる。世界中から集められた第一線の科学者たち(生物学者や物理学者、電気電子工学者のみならず、言語学者や社会学者まであらゆる学問分野からかき集められる)が、それぞれの分野から最新の知見を生み出しつづけるが、ある知見は地球起源説をしめすようであり、またある知見は新惑星起源説を支持するようであり、議論は一向に収束しない。
本作の主人公、物理学者であり、その知見を活かして非破壊型の透視スキャナーを開発したエンジニアでもあるヴィクター・ハント博士は、当初このスキャナーを扱う技術者としてチームに招かれる。しかし、やがて分野にとらわれない思考で、誰もが思いもよらない角度から問題を斬り、一見相矛盾する知見を両立させる仮説を見出し、ジグソーパズルのピースピースをはめこんで一枚の絵を完成させる作業を担うようになる。これこそ、学問分の垣根を超えて各分野をつなぎ、「〇〇人」の歴史・文明・文化・興亡までを統合的に扱う「学融合」であろうと、筆者は今も思っている。ここまでの紹介で「読んでみたい!」と思っていただけたら本望。ぜひぜひ手に取ってみていただきたい。そして様々な「学融合」の例が交換できると良いと思う。

ちなみに、新領域では学融合に対応する英語としてTransdisciplinaryを使うことが多い(そして私がかかわるサステイナビリティ学のキーワードもTransdisciplinaryである)。このTransdisciplinaryは、「学問」間の横断・協働・融合にとどまらず、学問と社会の協働までを含むものだという理解が定着しつつあるようである。ヴィクター・ハント博士が取り組んだ「学融合」は、「宇宙服を着た死体」という、ある程度客観的な研究対象があったため、「学問」間の融合がメインだったように思うが、「社会との協働」まで視野に入れたTransdisciplinaryには、さらなる議論が必要である。が、その話はまたの機会に(があれば、もしかして?)。