◆◆  社会文化環境学専攻
◆◆◆  福永真弓 准教授
◆◆◆◆ 

人工肉を食べまくる

在外研究でカリフォルニア州のバークレーに来ている。最近見つけたら試しているのが、植物性人工肉とでもいおうか、大豆やジャガイモなど植物性タンパク質をもとにつくる、動物性ではない肉製品だ。
もともと友人にビーガンやベジタリアンも多いので、持ち寄りパーティがあるときは、たいていビーガンの人が食べられる豆腐や味噌などの料理を作って持って行く。そのとき、他の友人達が持参してくる植物肉は食べたことがあった。また、研究内容から、気候変動の緩和と適応策、食糧安全保障、クリーンで安心な食べものの調達、動物倫理や福祉への配慮、そういった諸々の目的をクリアするという「肉」に興味もあった。
ベイエリアは食に関するベンチャー企業も多く、滞在しているUCバークレーは、遺伝子工学を応用したGMO食品開発の研究拠点になっている。しかもベイエリアには健康や安心を食品に求める層が多く、マーケットとしても魅力的だ。まずは食べてみないとはじまらないから、とりあえず目に付いたものから食べて記録を取ることにした。
まず試したのがバークレーにある「肉屋の息子」という名前のついた植物肉のみを使ったレストランだ。チキンボールを模したものはトマトソースのせいか、いわゆる豆腐ボールの亜種のようだった。その後、同じ店で豚の肉をよく煮込んだプルドポークを模したものを食べたが、正直に言って食べきるのがつらかった。これは植物でできているから、とか、味付けが余り上手じゃないから、とか、いろいろ留保をつけてみたが、出来の悪い肉っぽいかまぼこだった。日本のカニカマ開発に尊敬の念を覚えた。
そのほかにも、NO EVILとパッケージに文字が大きく躍るソーセージや、ベーコン、ハム、ナゲット、などいろいろと試したが、今ひとつ、といった味ばかりだった。話題のビヨンドミートも、それなりにハンバーガーのパテとしては優秀だが、肉ではなかった。その時点でわたしは、つまり植物肉とはそういう別の味の文化を創ろうとしているのだ、と割り切って食べまくることにしていた。しかも香料と調味料のせいか、その主張に反して、ちっとも身体に良さそうな気がしないのが困りものである。
ところが、だ。インポッシブルフーズによるインポッシブルミートを使ったバーガーは衝撃だった。むしろ肉でしかない。カニカマはカニカマであることがわかって十分に美味しい。インポッシブルミートは肉でしかない美味しさなのだ。遺伝子工学で肉らしさの源、ヘム分子を生む酵母をつくり、大豆とジャガイモのタンパク質を醸させたというのが公式説明である。美味しいのになんだかよくわからない敗北感を覚えて帰った。
ここまで書いて紙幅がつきてしまったが、その後何を考えたかは機会があればまた書き留めたいと思う。カニカマレベルで新しい文化となり得る人工肉味を目指すか、それともあくまで模倣元に忠実に模倣させるか。商品の品質をはかる物差しとしては、わたしの中で二つができあがったことだけを記しておこう。というわけで、まだまだ人工肉食べまくりは続いている。

⇐ 11月のコラム        ⇒2020年1月のコラム 
リレーコラム一覧