7月のコラム
■■ 物質系専攻
■■■ 糟谷直孝 助教

 

今回,リレーコラムというものを依頼され,先達のコラムの幾ばくかに目を通した。なるほど,みな,筆が達者でいらっしゃるようで,また,日常が充実していることが伺えた。私はどうかというと,筆は稚拙であり,また日常も特別充実しているわけでもない。要するに,特別ネタにすることがないのである。柏キャンパスの周りには文字通り何もないから,余暇に何をするかというと実験ばかりであり,非日常的な経験も乏しい。
 化学系のバックグラウンドということで白羽の矢が立ったらしい。確かに出身学部は応用化学科である。が,私は化学,特に有機化学に疎い。学部時代の授業を聴講していた際に,パズルめいたそれにより苦手意識が芽生えたらしい。もちろん,現在の専門は固体物性であるから,材料科学というものにはいくらか知識がある。要するに,化学のことに触れてほしいという期待には応えられない。ヘリウムが高騰して頭が痛いとか,そのようなことは書けるが。
 創域会所属のもの(すなわち新領域卒業生全員)がこのコラムに目を通すから,柏キャンパスを懐かしむことができる内容がいいという要望も仰せつかった。学部4年時から柏におり,修士課程・博士課程を経て現在助教となり7年目を迎えているので,柏キャンパス在籍年数という観点からすればそれなりである。筆を執った今,初夏になり,ニホンノウサギやタヌキや蛇がキャンパスをウロチョロし,節足動物たちも大量に発生している。皆さん,いつもの柏キャンパスであります。さて,柏キャンパスでの学生時代を振り返ると,同期がたくさんいた修士課程までと,それ以降(博士課程)に分けられる。修士時代は本当に同期に恵まれていた。実験もたくさん行ってきたし,サッカーも毎日のようにしていたし,金曜夜には飲み明かした。以降はどうだろうか。コロナ禍と被ったというのもあり,充実はしていなかった。授業料はどう工面しようかといった経済的不安もあったし,私自身の研究成果がまとまるのも遅かったし,毎日がストレスの地獄であった。実際,博士3年時には500円玉より少し大きいサイズの円形脱毛症になったし,以来,胃腸も絶不調となっていた。物性研究のあるあるなのかどうかは分からないが,何かアタリとなる成果が出るまで頭を使って,手を動かしてしつこく取り組まねばならない。この過程に学位取得のための時間的制約があると,精神にとって非常に悪いものになる。東大に長くいると,自分より遥かに優秀な人材にたくさん遭遇する。自分が目前の研究をやることの意義を,自分がこの分野に居続けた先の目標を,何度見つめ直しただろうか。中途半端ものであった,自分には柏キャンパスでの生活は辛い色一色になっていってしまった。柏を懐かしむ,そのような時が私に訪れるとよいが。皆さんはどうであろうか。

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