♦♦ 人間環境学専攻
♦♦♦   蜂須賀知理 特任講師
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 マスクの在る日々

 「今日はどのマスクにする?」今朝も子供にそう声をかけて一日が始まった。 この1年を振り返ると、目まぐるしく変わる生活様式や日々のルール、世の中の常識に、どのようについていけばよいものかと模索し続けていたように思う。まだまだ着地点は見つけられそうにないが、それならばと視点を変えてみることにした。

 衛生目的で使用されている現行のマスクの起源は、1世紀にまで遡るそうである。古代ローマにおいて鉱夫の呼吸器を守るため、動物の膀胱を使用していたのが始まりとされる。そして、のちにレオナルド・ダ・ヴィンチによって発明されたのが布製マスクの起源のようだ。日本におけるマスクの始まりは明治初期とのことで、炭鉱夫のための粉塵除けとして使用されていたものが、スペイン風邪等の流行をきっかけに、感染予防を目的として一般に普及していったという。(参考:一般社団法人 日本衛生材料工業連合会)

 そして現在では、花粉症や感染症、PM2.5から現代人を守るための衛生機能だけではなく、色や形、マスクにつける装飾品まで出回っている。高級メゾンが次々とブランドマスクを発表し、美容業界からは、UVカット、美肌効果のあるマスクも展開されている。まさにマスクのダイバーシティである。

 雪の降った翌日の今日、家の側で蝋梅が咲いているのを見つけた。甘い芳香で初春を知らせる蝋梅であるが、マスク越しにその香りは感じられなかった。思い返せば2020年、外出自粛をしていたこともあるが、春先の沈丁花、梅雨時のクチナシ、秋口の金木犀、何れの香りも楽しむことが叶わなかった。植物には詳しくないが、子供の頃からこれら草花の香りで季節の訪れを感じてきたため、少し寂しさを覚える。では、花の香りを感じられるという「価値」はどうだろう。衛生機能は担保したまま、不快なにおいは通さず、季節とともに移り変わる花の香りだけ、ふわっと香らせてくれるマスク。

 2021年、まだまだマスクを手放すことはできそうにないが、次々と変わる新たな評価軸に当惑した昨年を糧に、今年は新しい価値創造に思いを馳せてみようと思う。

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